Fear & Hunger レビューほぼ一人の狂気によって作られた 最狂&最高のダンジョンクローラーRPG

ゲームレビュー

Fear&Hungerは2018年に発売された、ダンジョンクローラーRPGだ。製作をほぼ一人で手掛けたのはフィンランド出身(と思われる)ミロ・ハヴェリネン氏である(https://happypaintings.tumblr.com/)。

発売と同時期に彼が海外のブログメディアから受けたインタビューによれば、当時学んでいたフィンランドヘルシンキにある「メトロポリア大学」の卒業研究の一環としてこの作品を作ったのだという。

アートワークからシステム設計まで氏のオリジナル、制作エンジンとして「RPGMaker」(いわゆるRPGツクール)を使用、効果音は日本人の小森平さんが個人で運営しているフリー音源サイト「効果音で遊ぼう!」のものを使用するなど、これぞインディーと言えるタイトルである。

こうした形で作られた本作だが、これまでに3921件(2023年8月11日時点)のレビューを獲得、そして非常に好評という評価を得ている。要は大ヒット作なのだ。

マルチエンディングの一部を見たのみだが、筆者もクリアまでプレイしたので、その魅力や難点だと感じた要素など振り返ってみたい。

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一癖も二癖もある者たちが、脅威のはびこる「恐怖と飢餓のダンジョン」に挑む

舞台となるのは中世と思しきロンドンにある「恐怖と飢餓」という物騒な名が付けられた牢獄だ。

舞台背景にある世界では、人知を超えた力を持つ「古の神々」と呼ばれる者たちが存在する。文字通り、神のごとくあがめられていた彼らだが、人々の中には科学や魔術、生贄や姦通などを通して、彼らと通じ、その叡智に授かろうとするものも。

恐怖と飢餓の牢獄は、そんな古の神々が存在する次元との結節点である、さる遺構の上に建てられている。そのため、牢獄の地下にある結節点を目指し、様々な勢力が暗躍していた。

古の神々の叡智に触れ、狂気にかられた獄卒たち、叡智を求める勢力たち、そして深淵から湧き出た魔性の者たちが待ち受ける魔窟に、プレイヤーは挑むことになる。

4人の主人公たち

迷宮に挑むのは4人の主人公たちだ。それぞれ異なったバックグランドと迷宮に潜るに至った使命を背負っている。(以下はダンジョン内にてNPCとして遭遇時の名前、プレイキャラとして選ぶときは自由に名前を付けられる)

主人公の一人、傭兵のカハラは、東国の中心都市ジェタイア出身だ。親から捨てられた彼は、強盗やすりなど、荒事で身を立てざるを得ない環境で育ち、流浪の生活を経て、ロンドンへとたどり着く。

ある日彼は、ロンドン王国から恐怖と飢餓の牢獄にとらわれている、さる「騎士」の救出を依頼される。カハラはすでに牢獄の恐ろしさを知っていたが、同時に牢獄のはるか底にある遺構には、巨万の富をもたらす財宝があるとの噂も知っていた。カハラは一獲千金を果たし裏稼業から足を洗うため、牢獄の底を目指す。

もう一人の主人公ダルスはロンドンの貴族階級の生まれ。気高き志を持っていたダルスはその身をロンドン王国にささげるため、女性そして貴族でありながら、騎士として戦地を渡り歩く生き様を選んでいた。しかし、彼女は騎士としての務めの中で、自らが命をささげている王国が貧富を問わず、あまねく民の利益のために政事を行っているわけではないと知り、苦悩する。

王国に使える道を捨てた彼女は、ルガルドと名乗る、容姿端麗な男が率いる傭兵団「白夜の騎士団」の一員として戦うことを選ぶ。ダルスはルガルドの右腕と称されるまでになり、白夜の騎士団もルガルドのカリスマもあり、急成長し、ロンドン王国の一軍隊のような扱いを受けるまでになる。

しかし、栄光は長くはつづかなかった。団長ルガルドは日に日に古の神々に通じる遺物への執着を示すようになり、ついには「深淵のキューブ」と名付けられたアーティファクトを得るため、暴挙に踏み出す。深淵のキューブを保有している北方オルデガルド王国に攻め入り、多数の無辜の民まで殺し、深淵のキューブを奪い去ってしまったのである。

ルガルドの台頭を快く思っていなかった貴族たちは多く、この乱心を理由に、白夜の騎士団はロンドン王国軍から戦犯として付け狙われ、崩壊、ルガルドも恐怖と飢餓の牢獄にとらわれてしまう。

唯一生き残ったダルスはルガルドを救出するため、そして彼の真意を探るため、牢獄を目指す。

3人目の主人公は、北方のオルデガルド王国から訪れた戦士、ラグンヴァルドルだ。彼は両親からの愛を受け育つ。そして彼は高い人徳を備えた、比類のない戦士に育った。

厳しい北国の暮らしは決して楽ではない。ラグンヴァルドルは民を助けるため、仲間たちとともに海を越えはるか西にある肥沃な大地ヴィンランドを目指した。

ついにヴィンランドにたどり着いたラグンヴァルドルたち。だが、ヴィンランド、そこは古の神々の叡智が色濃く残る魔の大陸だった。狂気にかられ、一人、また一人と仲間が失われていく中、ついに彼らは成果を手にする。それが「深淵のキューブ」だった……。

ラグンヴァルドルの目的は単純明快だ。故郷に攻め入り、仲間たちを殺したルガルドを探し出し、そして、復讐を果たすことである。

最後の一人が、世界一悪名高き闇の司祭と呼ばれる博覧強記の男エンキである。霊的な才能を持つ一族に生まれた彼は、双子の妹とともにカルト教団に属し、探究の日々を過ごしていた。

ついに二人が、カルト教団の闇の司祭となる儀式の日となる。その儀式とは双子の片方を殺すことだった。病弱な兄エンキと異なり、肉体的にも優れていた妹はついに兄の首に短剣を突き付ける。しかし、妹は兄を深く愛していた。そしてエンキも気持ちは同じだった……。

戦いに敗れることを選んだエンキは、生きたまま井戸に投げ込まれてしまう。まだ息の合ったエンキは、井戸の底から沸く虫を喰らいながら命をつなぎ、邪法を駆使し、井戸の底から生還を果たす。

カルト教団を離れたエンキは大陸を渡り歩き、学問探究の旅を始めた。次第にその名声は高まり、ついには大陸中にその名をとどろかすこととなった。

ロンドン王国にある「大図書館」で学ぶことを許されたエンキは、古代の予言を記した、ある書物と出会う。そこにはこの時代に一人の男が現れ、神のごとき力を持ち、人類に栄光をもたらすと記されていた。そしてエンキは、その男が恐怖と飢餓の牢獄に囚われていることを知るのだった。

ソウル・ボーン式で紡がれる膨大なストーリー

こうしたシナリオはゲームを進めていく中でプレイヤーにすべてが明治されるわけではなくプレイヤーが探索し、時に敵と会話をし、あるいは操るキャラクターを死なせる中で明らかになっていくことになる。この形式は作者が影響を受けたというソウル・ボーンシリーズで採用されているものと同じ方式と言えるだろう。何度も死にながらダンジョンを潜るというゲームシステム、それゆえに潜るたびに物語の沿革がわかるようになっていく。この点はシナリオとシステムの融合がうまく図られていると感じた。ソウル・ボーン的なゲームだと「何を言ってんだかよくわかんねぇな」となるゲームも多いのだが、Fear & Hungerに関してはそのたぐいの不安は無用だと言える。

ネタバレしない範囲でシナリオに触れると全体的な世界観は「クトゥルフ神話」的なモチーフが色濃く反映されているものだ。物語は時代の転換点に現れた運命の男「ルグルド」そして、彼をめぐる強い因果に翻弄される主人公たちという流れになっている。この辺りの基礎設定は、作者が愛する作品だと語っていた漫画「ベルセルク」のグリフィスとゴッドハンドそして、鷹の団やガッツたち旅の者たちの姿をほうふつとさせた。

こうしたメインとなるシナリオだけでなくバックグラウンドの設定内容、例えば物語世界の歴史や主人公たちを翻弄することになる「古き神々」や「新しき神々」によって紡がれる神話、醜悪な敵対キャラクターたちがそうなったわけなども細かく設定されている。そのほかにもゲームのクリアとは関係のないNPCを救うサブクエストなども複数盛り込まれているなどとにかく膨大だ。単にクリアを目指すだけでなく、ダンジョンに潜りながら、世界観を掘り起こしていくのも楽しくなっている。

切られれば腕が落ち 咬まれれば感染症にり患 運が悪ければ即死 鬼畜な難易度

さて、大まかな世界観について話をしたので、ゲームシステムに触れていきたい。端的に言えば無茶苦茶難しいダンジョンクローラーRPGだ。

まず、RPG方式の戦闘システムを採用しているが、レベリングの概念はない。つまり、戦闘を重ねるたびに強くなる、といった要素はほとんどない。

また、出自によって微妙な差はあるものの(例えば騎士のダルスは最初から比較的強い武器と強力な防具を持っている)、主人公となるプレイヤーの装備は貧弱だ。

加えて敵は強力である。序盤から登場し、プレイヤーを付け狙う本作の看板キャラクター「衛兵」の時点で強すぎる。普通に一撃でライフを半分以上持っていく上に、数発攻撃を与えなければ倒せない高い耐久力を持っている。

さらに、恐ろしいのが本作独自の様々なバッドステータスや特殊効果だ。例えば、敵から斬撃系の攻撃を喰らってしまうと、ダメージによっては手や足が「切断」されてしまう。このことにより「盾」や「両手持ちの武器」がもてなくなってしまう。

さらに運が悪い場合は両手を切断され、武器のたぐいは一切持てず、勝っても「詰んでしまう」ことだってある。足が切られた場合には走ることができなくなるし、両足を切断された際は這って進むことしかできなくなる。

そのほかにも凶悪なバッドステータスは目白押しだ。例えば「グール」のような衛生状態のよろしくない敵から攻撃を受けると、手足は細菌に感染してしまう。適切な治療を行わず、そのまま放置すれば、敗血症のような症状に陥り、プレイヤーは命を落とす。

何より恐ろしいのが、衛兵と同じく、プレイを通しての脅威にさらされることになるカラスのような頭部を持つ強敵「クロウモーラー」の攻撃による「斬首」だ。ウィザードリィで言うところの「首がはねられた!」である。

クロウモーラーは頻繁に「ついばみ(peck)」という攻撃を繰り出してくる。これを喰らうと首が飛ぶというわけだ。当然主人公が喰らうとゲームオーバーである。クロウモーラーはその他にも「目つぶし」攻撃を繰り出してくる。

もちろん本作において「目つぶし」は「攻撃の命中が下がる」程度の生易しいものではない。文字通り目がつぶれてしまうので、戦闘後プレイヤーの視界は暗闇に覆われてしまい、これまた「詰んで」しまう。

状態異常や体力を回復したり、防具を集めてキャラクターを強化することもできるが、これら要素にも制限がある。本作ではロケーションによって2パターンのマップがランダムで生成される仕組みなのだが、どちらにおいてもおいてある資源は有限なのだ。加えて宝箱などは開ける前に「コイン」によるラッキートス要素が挟まれ「裏」か「表」、正解を正しく選ばないと、得られるアイテムグレードが下がったりそもそもアイテムが得られなかったりもする。

では、セーブ・ロードを駆使してやり直せるかというと、それも困難だ。牢獄の各所にある「ベッド」を使うことでセーブは可能なのだが、ここでもラッキートスが発生。運が悪いと、その階にいる脅威との戦闘になってしまう。「啓蒙の書」というアイテムを使うことで、安全にセーブができるが啓蒙の書は使い捨てのアイテムな上に、ゲーム内での入手数には限りがある。

つらすぎる脅威がある上に、アイテムには制限があり、セーブも満足にできず、そのすべては運の要素に左右される。とにかく厳しい、鬼畜な難易度である。

脅威に備えるためには何度もプレイヤーを死なせ、マップパターンやゲーム世界のことわりを覚えることが重要だ。先ほども述べたように、本作ではある種のローグライト要素はあるものの、マップは2パターン(ロケーションによっては1種類)しかない。敵もシンボルエンカウント方式なので、場所を覚えてしまえば遭遇を避けることができる。

各マップには選ばなかった主要キャラクターや協力的なNPCが存在しているので仲間にすることで、より戦闘を楽にすることもできる。また、死霊術を身に着けている場合は「死体」や「骸骨」を操り、戦闘のお供にもできる。

また戦闘においても、実はプレイヤーが有利に進められる方法がある。敵によっては会話によって戦いを避けられるものもいる。また、プレイヤーと同じく敵にも「手」「脚」「頭」「胴体」といった形で部位別に耐久値が定められており、人型の敵の場合は頭の耐久値を減らし切れば、他の部位のライフが残っていても勝利できるのだ。多くの敵では頭部は「ライフは低いが命中しづらい」ようになっており、運よく攻撃を当てることができれば、強敵を退けることも可能だ。

また、各種部位に関しても「ナイフを持っている右手を切り落として切断攻撃を封じる」「踊りながら魔法を使う魔術師の場合は足を切り落とせば強力な魔術を封じることができる」といった形になっており、敵によっては必勝法がある敵もいる。このように敵の弱点を覚えていくのも楽しい。

また、作品世界は体系だってつづられることはないものの、フレーバーテキストなどで知ることができるようになっている。本作の重要な要素の一つとなっているのが「学ぶ」ことだ。

本で学ぶことで「魔術」やクラフトアイテムのバリエーションが広がっていくほか、ゲーム内で世界に特に重要な神々についての概要が明らかになっていく。

シナリオ・そしてゲームの進行に大きくかかわるのが、人間が犠牲や研究、婚姻などを通して神の領域に達した「新しき神々」たちだ。そして、本作冒頭からその存在がほのめかされるグロゴロスやシルヴィアンそして深淵の神である。

彼らに関しては本を通して「儀式」の詳細を知り、のぞむものをささげることによって、危機的な状態異常を脱することができたり、特別な力を得られたりする。もちろん、儀式はプレイヤーに利益をもたらすだけではないので、注意が必要となる。

こうした要素をダンジョンクロールしながら解き明かしていく楽しさがこのゲームにはある。理不尽な死が頻発するゲームではあるのだが、クリアまでプレイしたとしても通しで2~3時間ほどと一回のプレイにかかる時間は短いので、何度も繰り返し遊びやすくなっている。この点は理不尽な死と遊びやすさの共存が何度もプレイしたいという気持ちにつながるようになっていると感じた。

情け容赦のなく出てくるグロゴアエロアート

先ほど述べたようなゲーム全体のシナリオや鬼畜な難易度からくる魅力を説明した。そのほかに本作には魅力でもあり、難点ともいえる点がある。

それが、制作者自らが手掛けた本作のアートワークである。美しさすら感じさせるのだが、一方で「首」や「手足」の切断面から性器に至るまで一切ぼかされない。マップ上で普通に性交に及ぶキャラもいたりする。また、一部の敵からの攻撃を喰らってゲームオーバーになると「性器拷問」「撲殺」といった特殊演出が入るという手の込みっぷだり。

どちらかというと、恐怖を掻き立てるような方向に反映しているものではあるのだが、気になる人もいるだろう。さらに言えば、この要素があることが、本作が圧倒的な高評価を得つつも、日本語を含めた多言語展開できていない要因になっているようにも思う。

とはいえ、インディーRPGの名作に違いないとは個人的に思っているので、アートワークを見て気になったら、ぜひプレイしてみてほしい。

日本語は未対応だが、システム周りや戦闘時など、プレイに直接かかわるものは比較的わかりやすい英語なので、DeepLなど翻訳ソフトを使えば問題なく楽しめるはずだ。

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