10月27日発売(PC)のサバイバルホラーアクションゲーム「SIGNALIS(シグナ―リス)」をクリアまでプレイしたので感想をまとめておきます(プレイ時間約7時間)。※最後の方に筆者の序盤プレイ動画を載せておきます。御託はいいからどんなゲームか見せろや! という人はそちらをご覧ください。
サバイバルホラーをジャンルとして確立させた金字塔的作品と言えば、カプコンのバイオハザードやコナミのサイレントヒルあたりでしょうか。
バイオハザードではアメリカ中西部の地方都市ラクーンシティの洋館を舞台にラクーン市警特殊部隊S.T.A.R.Sのクリス・レッドフィールドとジル・バレンタインが生物兵器T-ウイルスによって変貌を遂げた生けるしかばねと化した、ゾンビらクリーチャーとの命がけのサバイバル劇を繰り広げます。
サイレントヒルは、アメリカのさびれた観光地「サイレントヒル」が舞台。ライターの休暇中に娘シェリルとともにサイレントヒルに車で向かっていたライターのハリー・メイソン、突如車の前を横切ろうとした少女に驚き運転を誤り車ごと崖に転落してしまいます。目を覚ますと隣座っていたはずのシェリルがいないことに気が付いた、ハリーは手がかりを求めて一人サイレントヒルに向かうのですが、そこには濃い霧に包まれ、異形の怪物が跋扈する悪夢の世界が広がります。何ら特殊な来歴のない一般人であるハリーはシェリルを取り戻すため、サイレントヒルの謎に挑むのでした。
といった感じで、それぞれゲームの世界観は異なるのですが、どちらも以下の点を打ち出し「ゲームにおけるサバイバルホラーっぽさ」を確立し、以後の作品に大きな影響を与えた作品だと個人的には思っています。
・慣れが必要なラジコン操作と鈍重な動き。これらによって演出される恐怖
・弾薬、回復アイテムのリソースには限りがあり「戦わずに逃げる」ことが最適解になる場合がある、それにより恐怖感、焦燥感が生まれる
・不気味なパズルなどの謎解き要素
・プレイヤーに物語の背景は多く語られず、フレーバーテキストなどを頼りに考察する必要がある
アクション性に関してはどちらのシリーズも後続の作品で改善されました。アクション面での快適さは維持ししつつ高画質化に伴って、不気味なクリーチャーの造形や不気味な世界観を詳細に描くことで恐怖を演出しているように思います。特にバイオハザードは4以降はの作品を純粋にアクションゲーとして楽しんでいる人もいるかも。
そんな中、SIGNALISは初期のサバイバルホラーに影響を受けたことが如実にわかる作風です。トップビューの世界はPS1初期のような若干かくついたポリゴン調で絵が描かれ、画面にはブラウン管テレビで見ているかのようなノイズが走ります。不気味なクリーチャーが跋扈する世界に一人放り出される鈍重で非力なプレイヤーキャラを操り、限られた資源をやりくりし、生存を図らなければならない緊張感。
多くは語られないものの、プレイヤーがゲーム世界に没入することによって明らかになる物語の舞台背景などなど、とにかく昔のホラーアドベンチャーっぽくできています。現代のゲームとしてみるとストレスを感じる部分もあります。、インディーゲームとしては非常に完成度が高い。
さらに、単なるフォロワー作品ではなく、クトゥルフ神話をモチーフにした外なる神々に翻弄されるコズミックホラー要素、メインキャラクターの女性同士の親愛の情を描くなどなど、今っぽい要素を加え、オリジナリティもあります。
全体を通して気になるバグもなく、シナリオも難解ではありましたが、考察がはかどりやすい工夫がちりばめられています。日本語ローカライズも違和感はなくできており、かなりの意欲作でした。いかに細かく見ていきましょう。
SIGNALIS 概要 外惑星の採掘場を舞台に繰り広げられる恐怖
SIGNALISはドイツハンブルグに拠点を置くYuri Stern(ユリスターン)さんとBarbara Wittman(バーバラウィットマン)さん二人によるゲーム開発ユニット「rose-engine」初のタイトルです。
主人公である技術師型女性人造人間※「エルスター」が宇宙船「PENLOSE-512」でコールドスリープから目覚めたところから物語は始まります。
(※ゲーム内ではレプリカと表現、以下レプリカ:レプリカはゲーム内でゲシュタルトという言葉と対応しています。義体であるレプリカにゲシュタルトの人格をコピーするという技術があるらしきことがゲームを進めていくにつれ明らかに。Steamのレビューでも言及されていましたが、アンドロイドは電気羊の夢を見るのか、ブレードランナーで登場する人造人間レプリカントにかけているものと思われます)
一体この宇宙船で何が起こっているのか、プレイヤーにはなにも知らされません。とりあえず宇宙船を歩き回ることに。
そうすると、どうやら「エルスター」は「アリア―ネ・ヤン」という名の少女と親密な関係にあり、彼女とかわした「約束」を果たすべく行動していることがわかってきます。
しばらくす進むと場面が一転。太陽系外の「惑星レン」に築かれた採掘場「S-23 シェルピンスキー」に舞台は移ります。ここから本格的にサバイバルホラーアドベンチャーがスタート。
正直かなり唐突な出だしなのですが、プレイを進めていくにつれ、冒頭シーンの意味、エルスターの立ち位置が明らかになってきます。
どうやら、エルスターはあるゲシュタルトの女性を探しシェルピンスキーに来た模様。ですが、シェルピンスキーには人の気配なく、命を落とし倒れるレプリカの変わり果てた姿が目に入るなど物騒な雰囲気です。
しばらく進み見つけた生き残りの「シュタールレプリカント」も血塗れで生きも絶え絶え。口を開くなり「この施設はもう終わり」と告げるなど、シェルピンスキーで壮絶な何かが起こっていることが明らかになります。
シュタールから「生き残りは地下の坑道」に向かったと聞いたエルスターはシェルピンスキーの地下に向かうのですが、そこには全身の皮がハゲ、奇怪な化け物のような姿になった「レプリカ」がはびこる地獄絵図が広がっていたのでした。
この世の地獄となったシェルピンスキー。彼女たちをさけ、ときには武器を使って退けながら探索する中で明らかになる、謎の「病」の存在。めいめいに動く生存者のゲシュタルトやレプリカたち。徐々に明らかになるエルスター、アリアンネの遠隔。何故病が生まれたのか、二人の果たした約束とはなんなのか。不気味に変質した世界の行く末が徐々に明らかになっていく……。
といった感じがゲームの大まかな流れとなっています。
SIGNALIS ゲームプレイ概要 ストレスな操作感が良い
SIGNALISは冒頭話したように、オーソドックスなレトロスタイルのサバイバルホラーアドベンチャーになっています。
技術師レプリカ「エルスター」を操り化物になった「レプリカ」がはびこるシェルピンスキーを探索し、謎を解きながら徐々に徐々に地下に潜っていき、謎の根源に迫る、というのが流れ。
細かなところを見ていくと、まず画面はトップビューで奥行きのあるものではありません。ゲームシステムトータルで見ると、SIGNALISは初期バイオハザード、サイレントヒルのフォロワーという感じがしますが、画面自体はアドバンス期のゲームに近い印象です。
アクション面はバイオハザードにかなり近いものになっています。
主人公であるエルスターの移動はスティックで行います。戦闘タイプのレプリカではないため、エルスターの歩きは移動は激遅。その結果的との遭遇時走って簡単に逃げることができず、ダメージを覚悟で敵の間を突っ切るか、数に限りのある弾薬を使い撃破するかを、常に選ばざるを得なくなります。どの局面になっても緊張感が薄れません。
戦闘はシンプルです。ピストル、ショットガンなどのメイン武器はRボタンでリロード、LトリガーとLスティックで照準、Rトリガーで発射。エイムには若干のアシストがありレトロ作品よりは攻撃しやすい印象で背う。スタンガンや発煙筒、強力な回復薬など、使い捨てのサブアイテムもあります。これらは装備してLボタンで使用します。敵は一定のダメージを与えるとダウン。悶える敵に、近づいて踏み付け(Aボタン)でフィニッシュです。
ただ、敵はそこら中にわらわらと出現。要所要所で出現する「強敵」以外は進行状倒す必要のある敵はいません。
また、中盤手に入るアイテムを使って、死体を燃やさない限り、一定時間たつと復活しますし(だいたい15分程度)弾薬は無限わきせず、制限があるので、銃を片手に「俺つえー!!!」と叫ばんばかりにすべての敵を撃破するプレイはほぼほぼできません。囲まれたので仕方なく撃破する。通るたびにダメージを受けるので、面倒な位置にいる敵を処理する。といった立ち回りが求められます。
アイテムの同時保有数は6個まで。武器、サブアイテムを含めると残りのインベントリは4個です。そこを回復アイテムと謎解き用のアイテムで分けます。非常に少ないので、アイテム保管庫のある、セーブポイントを行ったり来たりして入れ替えながら、進めていかなければなりません。アイテムの整理整頓をしていないと、せっかく難所をクリアしたのに、重要アイテムが手に入らないなんてことも。また、SIGNALISでは弾薬など、進行場必ず必要でないアイテムでも捨てることができないので、保管庫にある「ショットガン」の弾薬をつい拾ってしまった。そのせいで、先にあった重要アイテムが拾えないということもおきがちです。この点については、現代のゲームとしては若干ストレスかなと思ったり。
その他セーブ周りに関しても、チェックポイントなんて気の利いたものはなく死ねば最後にセーブしたところからやり直しです。ここもいい意味でストイックにレトロ作品を参考にしていると言えますし、悪く言えばストレスフル。SIGNALISは正直にいって快適な操作感のゲームではありません。ただ、過去のレトロサバイバルホラーと同様にこの「ストレスフルな操作感」が敵との遭遇時の探索中の恐怖感、焦燥感を駆り立て、ゲーム世界への没入感を断構えているのも事実です。非常によくできています。
SIGNALISではこうしてエルスターを動かしながら、シェルピンスキーにある謎をとき探索してきます。謎解きの種類は結構多め。簡単なものでいえば、壊れたエレベーターの電源を直し再起動させたり、パスワードが必要な金庫を開けて「鍵」を探し出したり。こちらは正直なところバイオ、既存のサバイバルホラーあるあるを踏襲した内容になっています。あまり変わり映えはしません。ただし後述するように一度見たヒントは随意に確認できるなど、現代のプレイヤーでも遊びやすいよう調整されています。
謎解き要素の中でも目新しさが感じられたのが、主人公エルスターが義体であることを活用したギミックです。一つが、通信機。エルスターたちレプリカは頭の内部に電波を感知できる通信機を感知しており、周波数を合わせることで、特定の音楽が流れたり金庫を開けるためのパスワードが明らかになったりします。ラジオを利用して敵の察知を判断するサイレントヒルの要素を感じさせつつ、オリジナリティも感じさせるにくい仕組みですね。
その他、ロボットだから記憶媒体にデータを移管すればOKといった具合で、一度見た「フレーバーテキスト」は全て記録され、いちいちテキストが置いてあった場所に戻らなくてもよい仕様になっています。キャラクターの設定と便利さが合致したいい仕組みだと感じました。
SIGNALIS シナリオ クトゥルフ神話ミーツ百合SF
さて、ゲームシステムを見てきたのでシナリオに触れたいと思います。端的に言うならば、クトゥルフ神話を絡めたSFホラーに百合要素が絡まり、物語終盤にはそれまでのプレイヤーが体感した物語が一変するような大どんでん返しがあるものになっています。個人的には好みでしたが、ホラーゲームとしての面白さと遊びやすさをゲームシステムと異なり、かなりとがっています。刺さらない人には刺さらないかなぁ、と思ってしまう自分もいました。※以下はシナリオの核深部に触れるネタバレ要素や筆者の主観が含まれた客観性に乏しい内容が含まれます。
外なる神の先触れに触れて崩壊した、シェルピンスキー?
物語冒頭から、SIGNALISはクトゥルフ作品に登場する重要なモチーフの一つである書物「黄衣の王」が登場するなどクトゥルフ神話をモチーフにした作品であることが暗に示されます。
クトゥルフ神話は何ぞや、と非常にざっくりというと、19世紀初頭に執筆活動をしていた怪奇小説家・幻想小説家「ハワード・フィリップ・ラブクラフト」の「異次元の神々」など人間の理解の埒外を越えた超自然的な存在によってもたらされる恐怖(ラブクラフト自身は宇宙的恐怖と表現)を描いた作品群を指します。「クトゥルフの呼び声」などが有名ですね。ラブクラフト自身は生前、無名作家だったのですが、友人であり作家のオーガストダーレスらがラブクラフトの残した作品を体系化。「クトゥルフ神話」として今日に伝わりました(※諸説あり)。
独特の世界観で、カルト的な人気を博し、のちの作家たちに影響をあたえています。著名なフォロワーとしては江戸川乱歩、スティーブンキングなどがあげられますね。
また、一連の作品に登場する魔導書「ネクロノミコン」や「クトゥルフ」「ヨグソトース」などの邪神たちなど、キャッチ―な舞台装置、怪異にさらされおかしくなる海辺の町や村が舞台となる、といった作品設定は小説だけにとどまらず、映画、アニメ・ゲームなどサブカルチャー作品にも引き継がれていきました。ちなみに先ほど出た「黄衣の王」もまたクトゥルフ神話の重要なアイテムの一つです。(※もともとは怪奇小説家ロバート・W・チェンバースが執筆した、読んだものを狂わせる戯曲「黄衣の王」にまつわる短編に着想を得たものとされます)
ホラーゲームでいえば寒村羽生田村で「サイレン」シリーズは個人的にはクトゥルフ神話の影響を強く感じさせる作品だなと思っています。最近の作品でいえばフロムソフトウェアの「ブラッドボーン」はもろにクトゥルフ神話的世界感をゲームに落とし込んだ作品です。それ以外にも女神転生の悪魔としてクトゥルフが登場したり、遊戯王OCGのキャラになったりとクトゥルフ神話の設定、登場キャラたちは小道具的にも使われています。
といった感じで説明が長くなりましたが、先ほど述べたように本作SIGNALISもこうした「クトゥルフ神話要素」をフィーチャーした作品です。
繰り返しになりますが、冒頭に黄衣の王が登場するのもクトゥルフ神話要素があることを予感させます。それ以外にも下記の点で非常にクトゥルフっぽい作品になっています。
・外なる神の力を利用しようとしておかしくなる(フレーバーテキストを読み進めていくと、舞台となる採掘場シェルピンスキーは”謎の何か”を掘り当てたことにより、おかしくなっていることが明らかになります)
・象徴的な場として登場する海辺(かっとシーンにて海辺が象徴的に扱われます)
・外なる神のさきぶれによって狂った登場人物たち
こうしたクトゥルフ世界で繰り広げられるホラーアドベンチャーの様相が強い作品なのですが、物足り後半になり、主人公エルスターと主要人物であるアリアーネヤンの関係性がおぼろげながら明らかになるにつれ、様相が一変するのです。
端的に言うならば人間の身であるために命に限りがある、アリアーネと義体であるあるためにアリアーネよりもはるかに長いときを生きるエルスター。この二人の関係性が物語を形作っていたことが明らかになるのです。
冒頭からエルスターは背景が語られず、小説でいうところの「信頼できない語りて」として登場し続けるのですが、なぜなのかが明らかになったときの衝撃はたまらない。
ぐちゃぐちゃ語ってきましたが、とにかく深みのあるシナリオでした。
その他当ブログレビュー動画はこちらです。
総論
7000文字くらいかけて散々語ってきましたが、アクションアドベンチャーとしてはレトロ作品にフィーチャーしレトロ作品がのこした遺産はそのままに、現代的な遊びやすさを加えた秀作です。シナリオも壮大な世界観を描きつつも、最後には現代的な人間対人間の関係に落とし込んでいく手腕は見事、クトゥルフ、ホラー、百合と要素要素はとがっているので刺さらない人は刺さらないでしょうが、好きな人にはたまらない作品になっていると思います。
・クトゥルフ
・SFサバイバルホラー
・レトロホラー
・百合
これらの要素にピンと来る方はぜひ手に取っていただきたい作品です。
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