兄弟の絆で困難に立ち向かう。この言葉をゲームをプレイすることで感じさせてくれる良作だった。
グリーク アズールの記憶はメキシコに拠点を置くインディデベロッパー「Navegante Entertainment」の初タイトルである。
横スクロールのパズルアクションゲームで、プレイヤーはグリーク、アダラ、レイデルという3兄弟を操作し、謎を解き、時にはともに戦い、アズールの地を襲う「ウーラグ」たちの脅威に立ち向かっていく。
グリーク アズールの記憶 ストーリー
舞台はクーリンというエルフのようなホビットのような種族が統治していた土地「アズール」。
アズールにはクーリン達のほかに敵対する種族「ウーラグ」がいたが、クーリン達はともに手を取り合ってウーラグとの戦いに勝利を収めていた。
だがある日、烏合の衆のようだったウーラグたちは徒党を組み、謎の力を使いクーリンたちに牙をむくようになる。強大な力に押されだすクーリン達。大地はウーラグたちに汚され、よどみからは「プラーグ」というゾンビのような醜悪な化け物が生み出され、クーリン達を襲うように。
クーリン達の栄華はなくなり、残されたクーリン達はアズール各地で脅威から身を隠しながら暮らしていた。「グリーク アズールの記憶」のタイトルにもあり、主人公の一人である少年グリークも、そんな残されたクーリンの一人だ。
グリークは生き別れた預言者の力を持つ姉「アダラ」とアズールでクーリン達の守護者として戦う偵察隊の一員である兄「レイデル」を探す旅の途中、森でウーラグたちに襲われ、倒れてしまう。
ケガをしたグリークが目をさますと、そこはクーリン達の残された住処の一つ「レイブンロード野営地」だった。すぐにでも旅立ちたいグリークだったが、旅に出るにはアズールの地図が必要だという。
グリークは野営地のまとめ役である「トロス」から地図を譲り受けようとするのだが、トロスは条件として新天地「シノラズ」に逃げるための飛行船を修理する資材を集めてくるようグリークにもとめる。そしてグリークは離れ離れの家族を探すため、クーリン達の命運を握る飛行船の資材を集めるため、アズールの地を旅することになる。
グリーク アズールの記憶 は手書きでアニメーションで書かれた美しいながらもかわいらしい世界感
グリーク アズールの記憶のタイトルにもあるアズール(Azur)はスペイン語で「青」を意味する単語だ。この言葉に表されているように、滅びに向かうアズールは全体的に青を基調とした美しい彩の世界だ。
背景、キャラクター、敵モンスターを含めグラフィックはすべて手書きタッチ。とくに2等身、3等身ほどにデフォルメされたクーリンたちの姿がはかなげでありつつ、かわいい。特に、はしごやつたをわしわしと登るグリークたちのうしろ姿は必見である。
また物語を彩るキャラクターたちも素晴らしい。根幹を担う、深い兄弟愛に溢れたグリークたち3兄弟。レイブンロード野営地の面々。現状に諦念をいだきながらも、偵察隊の戦士となる素質を持つグリークに技を授けるザック。アズールの辺境の地に一人で要塞を作り、籠り、ウーラグとの戦いに備えようとしている偏屈おじさんファーヴン。突如現れる謎の商人メルダマスなど、どれも個性的で物語にとってなくてはならず、捨てキャラがいない。
また、ストーリーの要所ではアニメーションが挟まれ、こうした物語を盛り上げてくれる。
ステージの背景に流れるBGMはオーケストラ調のものが多く「グリーク」の物語にあっていた。個人的には「ロードオブザリングシリーズ」を思い起こすような、荘厳なものが多かったように感じた。
グリーク アズールの記憶は2Dアクションゲームとパズルゲームが融合したゲーム
グリーク アズールの記憶はジャンルとして分けるのであれば「アクションゲーム」だ。2Dのステージ攻略型(一部探索要素もある)でキャラクターを操作し、「プラーグ」「ウーラグ」など敵と戦い、ギミックを使い謎を解いたり、トラップを回避したりしながら進めていく。要所ではボスとの戦いも用意されており、グリーク、アダラ、リンデル誰からのライフがなくなればゲームオーバー、最後にセーブした地点からやり直しという仕様になっている。
敵を撃破すると、お金代わりの宝石が手に入るほか、回復できることもある。グリーク アズールの記憶では回復アイテムも用意されていて、レイブンロード野営地や謎の商人「メルダマス」から「エリクサ―」を購入できる。また、アズールには植物や果物が自生しており、それをとって食べることで回復できるほか、道中にある鍋を使って特定の食材を調理することで、より強力な回復効果を持った「きのこなべ」「クレープ」「パン」といった料理を作ることもできる。
グリーク アズールの記憶のインベントリーの数はかなり少ない(各キャラ最大4つで共有はできない)ので積極的に活用したい。
また、戦闘を補助する、「砥石」(剣を装備しているグリーク、レイデルの攻撃力を上げる)「巻物」(魔法攻撃力を上げる)といったアイテムも落ちており、特にボス戦で効果を発揮した。
ここだけ書くと、それぞれの要素は既存の2Dアクションゲームでもよく見られるもので、割とオーソドックスだが、グリーク アズールの記憶独自の魅力は、ストーリーが進んでいき、グリークたち兄弟が揃うにつれてゲーム性ががらっと変わっていくところにある。
末っ子のグリークの一人旅となる序盤はシンプルなアクションゲームだ。敵を倒し、上にのると弾むきのこで障害物を乗り越え、つたをわしわしつたい、アズールに点在する沼地や瀧周辺の湿地を探索しながら、姉アダラの痕跡を探していくことになる。つまり、プラットフォーマータイプのアクションゲームのような遊び心地だ。だがアダラが見つかってからは徐々にゲームの内容が変貌していく。
簡単に言えば、末っ子グリーク、次女アダラ、長兄レイデルそれぞれの強みをいかし、弱みをカバーしながら進めていく、パズルアクションゲームのような遊び心地に変っていくのだ。
グリーク、アダラ、レイデルそれぞれの強みと弱み
末っ子グリーク、次女アダラ、長男レイデルの操作は以下のようになっている。
グリークはダブルジャンプ、溜め攻撃、下攻撃、上攻撃(特殊攻撃は道中偵察隊の兵士ザックから要求される課題(クエスト)をクリアしないと覚えない)、なんでもできるバランス型だ。また、ボウガンを装備していて、遠距離に攻撃ができる。加えて、小さい体を活かして他の兄弟たちでは潜れない狭い空間を通ることも可能だ。
次女アダラは預言者(アズールの世界で言う魔法使いのような存在)で、グリーク、リンデルと違い、ダブルジャンプはできないが、魔法の力で滑空することができる。高くは飛べないが、グリーク、レイデルでは届かない長距離まで到達することが可能だ。また、水中での呼吸時は三兄弟の中でもっとも息が長く続くため、アダラを見つけた後の水中探索はもっぱら彼女任せになるだろう。一方で兄弟の中ではもっとも攻撃力がよわく、非力だという弱みがある。
長兄レイデルは、アズール世界の守護戦士「偵察隊」の一員だ。3人の中でもっとも耐久力があり、攻撃力も高い。戦闘はお手の物だ。また盾を装備していて、正面からの攻撃をガード出来るほか、炎の柱のギミックを盾で防ぐこともできる。また、かぎなわのような道具を携帯していて、道中にある丸い鉄製のわっかに引っ掛けることで、遠心力を使い、遠くにジャンプすることが可能だ。
総じて頼りになる優秀な戦士レイデルには、唯一弱点がある。泳げないのだ。装備が重いのか、水が怖いのかはわからないが、グリークとアダラは水の中を進めるのにたいし、レイデル水につかった瞬間パニックになりおぼれてしまう(ライフが1減って、水際に戻されてしまう)。
兄弟が見つかってからはこれら3人の強みと弱みを意識したプレイが求められる。
兄弟三人はそれぞれ対応した十字キーのボタンを押すことで操作を入れ替えることができる(Switchデフォルトの場合上がレイデル、右がアダラ、左がグリーク)ほか、ともに手を取り合って(SwitchデフォルトではZLボタンを押しっぱなし)進むことや、離れた兄弟を呼び寄せる(SwitchデフォルトではZRボタン)こともできる。時に手を取り合って進めたり、時に他の兄弟を先にすすめ、道を切り開き、進めていくのだ。
アクションゲーム→バディアクション→3兄弟の絆を活かしたパズルアクション
グリーク アズールの記憶は1作で3度おいしいというか、グリークのみでプレイする序盤、アダラと共に謎を解きながらレイデルを探す中盤、3兄弟そろい、クーリンの命運をかけた、戦い望む、終盤でプレイ感が大きく異なるゲームだ。
くりかえしになるがグリークだけで進める序盤はグリークの冒険を楽しむアクションゲーム、といった趣だ。ジャンプ、蔦昇りなど駆使し、移動。手にしたロレアンの剣で、プラーグやウーラグの戦士たちと闘い、道を開いていく。
アダラが見つかってからはバディ要素を活かした、アクションゲームになっていく。シーソーのようなギミックを使って、グリークかアダラのどちらかを上へ跳ね飛ばし、上にあるはしごを降ろして、合流したり、動く床のギミックに片方を乗せて、残ったほうがギミックを動かしたりして進めていく。
ギミックも炎で氷の床を溶かしたり、光を反射させて起動させたりと種類が豊富だ。
敵に襲われた際にはアダラが遠距離攻撃で援護しながら、グリークがばっさばっさと敵を切っていく。
リンデルが見つかり兄弟3人全員がそろった終盤以降は、パズルの難易度がさらにあがって複雑になり、それに合わせて、グリーク、アダラ、レイデル3人の強みを生かす、あるいはそれぞれの弱みを補い合う形で、兄弟3人で困難に立ち向かうようにして進めていくゲームへと様変わりしていく。
水が張られたところでは、グリークが水に浮かんだ台を押して、レイデルを運んで行ったり、レイデルが盾となって、他の2人が勧める道を切り開いて行ったり、強敵との戦いでは、3人で手を取り合って、戦ったりという形で進めていくのだ。
この変化が家族を探す末っ子グリークの冒険から、最後の兄弟を探す二人の旅、クーリンの命運を握った、グリーク達三兄弟の戦いとゲームのストーリーが変わっていくにつれて、訪れるのも良かった。ゲーム体験と物語がシンクロしていくのである。
難易度はそれほど高くはないがやりごたえがある。パズル要素に関しては、マップを記憶する努力はある程度必要だが、一つの謎を解くのに何時間もかかるような理不尽なものではなく、試行錯誤しているうちに自然ととける程度のものになっていて、大人から子供まで楽しめる内容になっている。
これが初のNavegante games。次作も気になる完成度の高い作品だった。きになった方はこの機会にぜひプレイしてみて欲しい。
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